森見登美彦 『有頂天家族』

先生は私が恋文を盗み読んだことを先刻御承知であり、私は先生がそのことを先刻御承知であることを先刻御承知である。今宵に限ったことでなく、これまでの長いやり取りの積み重ねを通して、互いの先刻御承知が入り乱れている。けれども先生はそれを踏まえて喋ろうとはしないし、私も「ぶっちゃけ」はせぬ。師弟たるもの、…