【日刊 太宰治全小説】#15「逆行」くろんぼ(『晩年』)

【冒頭】くろんぼは檻(おり)の中にはいっていた。檻の中は一坪ほどのひろさであって、まっくらい奥隅に、丸太でつくられた腰掛がひとつ置かれていた。くろんぼはそこに坐(すわ)って、刺繍(ししゅう)をしていた。このような暗闇でどんな刺繍ができるものかと、少年は抜けめのない紳士のように、鼻の両わきへ深い皺(しわ)を…