【日刊 太宰治全小説】#24「陰火」尼(『晩年』)

【冒頭】九月二十九日の夜更(よふ)けのことであった。あと一日がまんをして十月になってから質屋へ行けば、利子がひと月分もうかると思ったので、僕は煙草(たばこ)ものまずにその日いちにち寝てばかりいた。昼のうちにたくさん眠った罰で、夜は眠れないのだ。夜の十一時半ころ、部屋の襖(ふすま)がことことと鳴った。風だ…