福田恒存 「郭沫若氏の心中を想ふ」 から - 書籍之海 漂流記

「朝日新聞」1966(昭和41)年5月2日掲載。ある思想家の著作はその著者のものであると同時に、あるいはそれ以上に読者のものである。著作を抹殺する権利は他のだれよりも著者に最も禁じられてゐるものと言へよう。自作の焼却を命じるのは、儒家を坑に埋め焚書を命じた秦の始皇帝以上の暴挙であり、思ひあがりの極と言ふべ…