【平安を舞台にした和風ファンタジー】『異形の国』 序

荒れ果てたお堂の中にほんのりと香が薫っていた。毛氈の上にただ一人座っている女房の衣装から薫る匂いだった。 女房は男を待っていた。 京の外れのこんなところに呼び出すなんて、私もよほどの変わり者だとは思ったが、それに応えて喜んで参るなどと言ってきたあの男も相当の色好みなのかもしれない。女房はかすかに微笑…