谷川雁 「びろう樹の下の死時計」

はじめ私は道ばたの草むらにつないである牛の傍をすりぬけたとき、その牛がまじまじと私をみつめるのに閉口した。「内地」ならば、ふてくされて知らぬ顔の半兵衛をきめこむのを得意としているこの獣がゆっくりとみつめる大きな眼には、なにかお互いの寂寥感を媒介とした会話の可能性みたいなものが感じられて、狐でも狸でも…