泣く女、透ける男/中上健次「蝸牛」をめぐって|furuyatoshihiro

古谷利裕 0.  短編集『十九歳の地図』(1974年)が中上健次という作家にとって重要なのは、そこにはしる断層が明確に見て取れるからだ。その断層は、最初の二篇(「一番はじめの出来事」「十九歳の地図」)と後の二篇(「蝸牛」「補陀落」)との間にはしっている。そしてこの断層は、中上健次という作家の生成を物語っているよ…