秋幸は(ほとんど)存在しない—「岬」(中上健次) について(1)|furuyatoshihiro

古谷利裕 1.語り手と登場人物との関係の歪み 0.はじめに 「岬」を読んでいて強く感じられるのは、秋幸という登場人物の徹底した受動性であろう。彼はあまりにも過保護であり、あらゆる事に関して人任せであり、自ら進んで能動的に行為を起こそうとすることがない。確かに、彼をとりまく関係はあまりに複雑であり、彼…