【荒木村重】名を捨てる夜|北河内呑兵衛

夜は、妙に静かだった。 有岡城の奥で、荒木村重は一人、灯の揺らぎを見つめていた。 城はまだ持つ。兵も尽きてはいない。だが、それが何だというのか。 外には織田信長の軍勢。逃げ場はなく、援軍も来ない。 ——降るか、死ぬか。 誰もがそう思っている。家臣たちは口に出さぬだけで、主の決断を待っていた。 だが村重の…