トーマス・マン「ベニスに死す」(岩波文庫) 老いたロマン派の芸術家は若く美しい芸術の神ミューズを絶対に捕らえられない。

高校生の時に「トニオ・クレーゲル」と併録された新潮文庫で読んだが、なんだかよくわからなかった。それ以来なので四半世紀ぶりということになる。一時期はマンの作品をよく読んだが、その緻密さに驚かされる一方で、なかなか作品世界の中に入っていけないもどかしさを感じたものだ。それはこの小品でも同じだった。とに…