源氏、野の宮を訪問する【源氏物語191 第十帖 賢木3】かれがれに鳴く虫の声、松風、遠くで聞こえる楽音‥艶な趣である。

九月七日であったから、もう斎宮の出発の日は迫っているのである。 女のほうも今はあわただしくてそうしていられないと言って来ていたが、 たびたび手紙が行くので、 最後の会見をすることなどはどうだろうと躊躇しながらも、 物越しで逢うだけにとめておけばいいであろうと決めて、 心のうちでは昔の恋人の来訪を待ってい…