【源氏物語294 第12帖 須磨28】東宮の御殿は 忍び泣きで満ちていた。世間もだれ一人今度の当局者の処置を至当と認める者はないのであった。

咲きてとく 散るは憂《う》けれど 行く春は 花の都を 立ちかへり見よ また 御運の開ける時がきっとございましょう。 とも書いて出したが、 そのあとでも他の女房たちといっしょに悲しい話をし続けて、 東宮の御殿は忍び泣きの声に満ちていた。 一日でも源氏を見た者は 皆不幸な旅に立つことを悲しんで惜しまぬ人もないので…