【源氏物語316 第12帖 須磨50 】去年の同じ夜に、なつかしい御調子で昔の話をいろいろあそばすふうが院によく似ておいでになった帝も源氏は恋しく思い出していた。

この月を入道の宮が 「霧や隔つる」とお言いになった去年の秋が恋しく、 それからそれへといろいろな場合の初恋人への思い出に心が動いて、 しまいには声を立てて源氏は泣いた。 「もうよほど更《ふ》けました」 と言う者があっても源氏は寝室へはいろうとしない。 見るほどぞ しばし慰む めぐり合はん 月の都は はるかな…