【源氏物語329 第12帖 須磨63】源氏は、京が思い出され泣くことが多かった。院の御代の最後の桜花の宴の日の父帝、艶な東宮時代の帝のお姿が思われた。

須磨は日の永い春になって つれづれを覚える時間が多くなった上に、 去年植えた若木の桜の花が咲き始めたのにも、 霞《かす》んだ空の色にも京が思い出されて、 源氏の泣く日が多かった。 二月二十幾日である、 去年京を出た時に心苦しかった人たちの様子が しきりに知りたくなった。 また院の御代《みよ》の最後の桜花の…