【源氏物語586 第18帖 松風10】明石入道は落ちてくる涙を拭い隠す。尼君は信頼する夫と離れることを嘆く。明石の上は、せめて見送ってほしいと懇願する。

「行くさきを はるかに祈る 別れ路《ぢ》に たへぬは老いの 涙なりけり 不謹慎だ私は」 と言って、 落ちてくる涙を拭《ぬぐ》い隠そうとした。 尼君が、京時代の左近中将の良人《おっと》に、 「もろともに 都は出《い》でき このたびや 一人野中の 道に惑はん」 と言って泣くのも同情されることであった。 信頼をし合って…