【私本太平記7 第1巻 下天地蔵7〈げてんじぞう〉】地蔵の両面とは、つまりは、わしのことだった。だから、我が子の両面をよう知っている母が言っていたのだ。地蔵菩薩を以て終身の守護にしようと思った。

老歌人の為定から 「……お供も召されずお一人でか」と、 いぶかられたのもむりはない。 いつもの右馬介さえ今日は連れていなかったのだ。 都は知らず東国では源氏の名流、 武門の雄と見なされている足利氏の曹司《ぞうし》である。 ゆらい遠国者の上洛ほど 派手をかざって来るものといわれているのに、 飄《ひょう》として…