【私本太平記9 第1巻 大きな御手〈みて〉①】彼方からおん輿の屋根にきらめく金色の鳳がゆらゆら見えて来た。みゆき先は、つい京極の大炊御門なので、関白、諸大臣、公卿殿上人ら、すべて供奉は徒歩であった。

あいにく、正月三日の空は、薄曇りだった。 そして折々は映《さ》す日光が、 北山の遠い雪を、ふと瞼にまばゆがらせた。 ——天皇の鸞輿《らんよ》は、もう今しがた、 二条の里内裏《さとだいり》をお立ち出でと、 沿道ではつたえていた。 行幸《ぎょうこう》や御幸《ごこう》を仰ぐのは めずらしくない都の男女だったが、 …