【平家物語93 第4巻 競③〈きおう〉】渡辺源三競の滝口、出陣の出立は、狂紋の狩衣に大きな菊綴、先祖代々伝わる所の着長《きせなが》緋縅の鎧、兜は銀の星をいただいている。

さて、高倉宮が三井寺へ逃げた十六日の夜、 京の源三位入道頼政の家は突然あちこちから火の手があがり、 どっと炎上し始めた。 火焔の明りで人々が見たのは、 甲冑《かっちゅう》に身を固めた武者三百余騎が 北へ目指して走り去る姿であった。 源三位入道頼政が、嫡子伊豆守仲綱、次男源大夫判官兼綱、 六条蔵人仲家《ろく…