【私本太平記10 第1巻 大きな御手②〈おおきなみて〉】香染のおん衣、おなじ色のみ袈裟、まき絵の袈裟筥《ばこ》をそばにおかれ、寝殿中央に御座あって,“御拝ノ礼”をとられた天皇を見守っている。

ほどなく、おん輿は、 京極おもての院の棟門《むなもん》につく。 夙《つと》に、お待ちうけらしいたたずまいである。 院司《いんじ》の上奏あって、 すぐ乱声《らんじょう》(雅楽部の合奏)のうちに、 鸞輿は、さらに中門へ進められた。 みかどの父ぎみ、後宇多《ごうだ》法皇は、 まだ五十五、六でおわせられた。 が、…