【私本太平記11 第1巻 大きな御手〈みて〉③】笛の孔に無心な指の律動を筬のように弾ませておられる お手のなんとも大きなこと。貴人にして力士のようなお手である。把握欲と闘志の象徴とでもいえるものか。

「主上《きみ》には、 ご受禅《じゅぜん》(み位をうける)の後は、 政務のひまにも、講書の勉《つと》め、 詩文の会など、ひたぶる御勉強のみと伺うが、 余りな御精励もおからだが案ぜらるる。 まれには、ちと、おすごしもよかろ」 法皇は、後醍醐の御酒量のほども知っておられる。 み手ずから酌してあげぬばかりなおすす…