【私本太平記13 第1巻 大きな御手⑤〈みて〉】皇后の侍《かしず》きに、阿野中将の娘で廉子《やすこ》とよばるる女性があった。廉子の美貌はいつか天皇のお眼にとまって、すぐ御息所の一ととなった。

皇后の侍《かしず》きに、 阿野《あの》中将の女《むすめ》で 廉子《やすこ》とよばるる女性があった。 廉子の美貌はいつか天皇のお眼にとまって、 すぐ御息所《みやすんどころ》の一と方となった。 花の命は短くて ——とはまま後宮の女性の喞《かこ》ちごとであったが、 廉子との御情交だけは異《い》なものがあった。 彼…