【私本太平記14 第1巻 大きな御手⑥】帝の笛に、京極殿の灯は更けていた。古例の曲を吹き終って、「ふつつかなお聞え上げを」と、御父の法皇に一礼し御座へ返った。夢幻から醒めたような息の白さが灯を霞める。

みかどの笛に、京極殿の灯は更《ふ》けていた。 みかどは、古例の曲を吹き終って、 「ふつつかなお聞え上げを」 と、御父の法皇に一礼して御座へ返った。 ほっと夢幻から醒めたような息の白さが灯を霞める。 女房たちの座からは、 ふと、みかどの方へ笑みを流した花の顔が多い。 今を時めく寵妃とたれ知らぬはない 阿野 廉…