【私本太平記22 第1巻 大きな御手14〈みて〉】しずかな姿には、 どことなく、武人の骨ぐみが出来ている。 少しも体に隙がない。 公卿が 日頃に武技の鍛錬もしているという世は いったい何を語るものか。

「さても、あのあと、どうなったかな?」 「最前の舟の出来事で」 「さればよ。あの若公卿の演舌など、 もすこし聞いていたかった。惜しいことを」 「まことに、 異態《いてい》な長袖《ちょうしゅう》でございましたな。 公卿と申せば、ただなよかに、 世事も知らぬ気にとりすましている貴人かとのみ、 心得ておりました…