【私本太平記32 第1巻 ばさら大名⑦】「‥ここなれば人けもなし、なんでも話せる。高氏殿、くつろごうよ」道誉は、釜のかけてある炉を前にあぐらをくみ、土岐左近はと見れば、潜む者はないかと確かめている。

この時代にはまだ後世のいわゆる茶道などは生れてない。 けれど喫茶の風は、ぼつぼつ、拡まりかけていたのである。 禅僧の手で漢土から渡来した始めのころは、 禅堂や貴人のあいだに、養生薬のように、 そっと愛飲されていたにすぎなかったが、 近ごろでは “茶寄合《ちゃよりあい》”などという言葉さえ聞くほどだった。 花…