【私小説】息の長い蚊と夫の長い指

今年の蚊は息が長い。残暑が厳しいからだろうか。 夫は庭から戻ると「かゆい、かゆい」と言う。 「蚊取り線香は焚いているのになあ」が決まり文句のように続き、虫刺されの薬を塗る、までがワンセットだ。 「ねえ、ぬってよ」 紅茶を飲み終え、キッチンで手を洗っていると、夫が立っていた。 手には虫刺されの薬。 「縫っ…