母 (太宰 治)
昭和二十年の八月から約一年三箇月ほど、本州の北端の津軽の生家で、所謂(いわゆる)疎開(そかい)生活をしていたのであるが、そのあいだ私は、ほとんど家の中にばかりいて、旅行らしい旅行は、いちども、しなか…