恩讐の彼方に (菊池 寛)
一 市(いち)九郎(ろう)は、主人の切り込んで来る太刀を受け損じて、左の頬から顎へかけて、微傷ではあるが、一太刀受けた。自分の罪を――たとえ向うから挑まれたとはいえ、主人の寵妾と非…