通魔 (田中 貢太郎)

 旧幕の比(ころ)であった。江戸の山の手に住んでいる侍(さむらい)の一人が、某日の黄昏(ゆうぐれ)便所へ往って手を洗っていると手洗鉢(ちょうずばち)の下の葉蘭(はらん)の間から鬼魅(きみ)の悪い紫色を…