少年 (谷崎 潤一郎)

もう彼れ此れ二十年ばかりも前になろう。漸く私が十ぐらいで、蠣殻(かきがら)町二丁目の家から水天宮裏の有馬学校へ通って居た時分―――人形町通りの空が霞んで、軒並の商家(あきうどや)の紺暖簾(こんのれん)…