艶書 (山本 周五郎)

一 岸島出三郎(きしじまいでさぶろう)はその日をよく覚えている。それは宝暦(ほうれき)の二年で、彼が二十一歳になった年の三月二日であった。よく覚えている理由は一日に二つの出来事があったからで、その一つ…