小説「渚の処方箋」1話⑤

第五回:渚の境界線 ​鼻腔の奥に劇薬が侵入した瞬間、真壁は、自分の足元にあるはずの「現在」という床が消失したのを感じた。 ​吸い込んだのは、単なる香りではなかった。それは意識の深層に突き刺さる重い楔(くさび)だった。アトリエ渚の、あの無機質な白い壁が、猛烈な勢いで剥落し始める。蔵前の夜の湿った静寂は、…