知らないはずの物事をなぜか懐かしく思う者 - 中島敦《木乃伊》連作短編「古譚」より|日本の近代文学

まったく馴染みのない風景を前にして、あるいは初めて聴く音楽に触れて、どうやら自分は以前からそれを知っているのではないか……と感じたことはあるだろうか。一体いつ、どこで体験したのかは思い出せない。それでも確かに頭の隅にあり、ふとした瞬間に浮かび上がってくる泡、もしくは絡まって解けない糸のようなもの。そ…