五木寛之 著『僕はこうして作家になった』より。きょう一日食えればいい。

〈べつにいいじゃないか。どうせ引揚者なんだから――〉 いつもお定まりの呪文をつぶやくと、急に元気が出てきた。難民として国境をこえ、海を渡ってこの国へたどりついた少年時代のことを思い出したとたん、どんなときにも居直りめいた勇気がわいてくるのである。〈きょう一日食えればいい〉 と、いう感覚も、たぶんこの辺…