江國香織 著『冷静と情熱のあいだ Rosso』より。自分の責任で自由に愛す。

梅ヶ丘のアパートは、小さいけれど居心地がよかった。絵の具と油の匂いがしていて、雨の日はそれが一層つよくなる。窓からみえる目の前の公園の、長い階段と濡れそぼつ枯れ木。ほんとうに死にたくなるような雨だった。あの冬のあの雨。私はあの部屋にとじこめられていた。それまでの幸福な記憶に、信じられないほどあとか…