坂口恭平 著『徘徊タクシー』より。わかりあえないことから。

「ばあちゃん、どっちね?」 大声をあげて尋ねると、彼女は右の人差し指をまっすぐに伸ばした。そこは小さいころ従兄弟たちとよく歩いていた道であった。トキヲを背負った僕は彼女の指を道標に少しずつ歩きはじめる。 トキヲをおんぶしたのはこれが初めての経験であった。同時に、四歳のときに彼女におんぶされて花火を見…